私は、株式会社サイバーエージェントで7年ほど広告・エージェンシー事業に携わった後、株式会社リクルートでマーケティングリードやプロダクトマネージャーを経て、現在株式会社AViCの執行役員・広告事業本部長を務めています。
当社は設立4年ながら、業界の”負”に挑む形でデジタルマーケティング支援事業を展開し、健全な成長を遂げてきた現在があります。今回の記事はその一端をご紹介しつつ、読者の皆様に、今一度ご自身の仕事や業界について捉え直す機会になればと考えています。
プロフィール:瓜生 翔(うりゅう しょう)
ハウスエージェンシーを経て株式会社サイバーエージェントに入社。広告事業部門にて、インターネット広告を中心としたデジタルマーケティングにおけるコンサルティング業務に従事。株式会社リクルートにおいてマーケティングリーダー、プロダクトマネージャーを経て、2020年5月に株式会社AViCに入社、執行役員に就任。
クライアントに本質的に向き合えているか?
マーケティング企業で働く方々にとって、今、とにかく「広告を配信すること」が仕事になってはいないでしょうか。その広告は、自社の営業行為ではなく、クライアントを勝たせるマーケティング行為として、最善であると確信をもって行われているでしょうか。1つ1つのプロジェクトに充分な時間を割ききれず、蔑ろになってはいないでしょうか。
論語と算盤、あるいは浪漫と算盤といった言葉があります。クライアント企業や社会に対する本質的な価値発揮と、自社の利益追求と、このバランスあるいは循環は、読者の皆様が居合わせる環境において、果たして適正なものでしょうか。
売上や粗利など、財務指標・目標を基にした組織マネジメントは、どのような企業でも当たり前に行われているものですが、これには弊害もあると考えています。この目標値はストレッチし続けることを求められます。100やるより、150やった方がいい。150やるより、200やった方が偉い。これ自体は当然とも言えますが、1人1人が生産に充てられる時間とは本来固定的なものなのに対して、際限ない目標値ストレッチは得てして「無理」を生じさせます。
1社1社のクライアントに十分に向き合えない。十分な時間を割けない。提供品質が低下し、お叱りを頂いたり、それが積み重なればお取引の停止につながることも。「じゃあ次」と切り替えて、新しいお客様とのお取引に取り掛かり、また・・・。残念なことに、少なくないエージェンシーの内部で、このようなことが日常的に起こっていると感じます。
こういった状況がまかり通るのは、1つには広告宣伝費のデジタルシフトが相当に進行していることがあると考えています。既存顧客の解約・離反があったとしても、新規顧客との取引開始によりトータルで数字が伸ばせてしまう環境。内実、”入っては抜けて”を繰り返していつつも、社として、事業としての合計数字は伸ばせてしまう構造があると考えます。
勿論、それも1つの事業経営の方法なのかもしれません。ただ、品質を置き去りにしたサービス、「配信すること」がゴールになっている広告において、クライアントは本質的に幸せにはなれません。実際、当社とお取引を開始頂く会社様の多くが、過去にそのような苦い経験をされています。これが、我々が対峙する業界の”負”の1つです。
自分自身の成長や、プリンシプルを大切にできているか?
当社では、成果を出している優秀な人材や、クライアントに対して本質的なサービスを提供できる人材はどのような人材なのかを明確に言語化しています。
明確に言語化した上で、実際に集客数や売上を伸ばせるケイパビリティ、あるいは、クライアントすら気付いていない潜在的なマーケティング課題を示すことのできるケイパビリティを評価する。そのようなスタンスに基づき、当社は人事考課においてグレード制を採用しています。
「こういうことができるとグレード1、こういうことまでできるとグレード2」といったように、各グレードの要件を言語化・明文化し、社員に開示・共有しています。
グレードが高い社員は、結果的に大きな売上貢献・利益貢献をすることになるので、そういった意味で定量成果と能力評価が全く紐づかないということにはならないのですが、少なくとも、個々人に「売上目標」「粗利目標」などの数字目標を課していません。皆、自身のケイパビリティ向上と、クライアントへの提供品質向上を目指し、業務を推進しています。

また、各社員の工数管理をしっかり行うことも品質担保に確実につながっています。誰がどのアカウントにどの程度の時間を投下しており、足し上げた総工数は適正域に収まっているかどうか。もしスポット的に稼働がかかることがあるにせよ、それを本人として、また組織として、自覚的に扱えているかどうかが非常に重要であると考えます。
因みに、当社は前述の通り個人目標型の管理を行っていないこともあって、メンバーが相互に稼働面で助け合うことが自然発生的に行われることにもつながっています。
「無理を生じさせない」ことが、継続的に成果を出すためには合理的であり、重要であるということです。
ここまで述べてきたようなマネジメント方針により、当社のチャーンレート(顧客離反率)は極めて低い水準となっています。特にここ数年では、いわゆる品質不満による解約はほとんど発生していません。このような既存顧客とのお取引きの強固な基盤をベースに、私を中心とした、事業部の幹部が新規営業の責を負う事で、成長性を加速させています。このフォーメーション・役割分担により、自社としての利益創出・成長も、クライアントへの提供品質も、どちらも犠牲にすることなく、ベストバランスを実現できています。
低品質なサービスが提供されてしまった結果としてのトラブル対応や、それをリカバリ、挽回する仕事の負荷というものは、クライアントに対峙するメンバー1人1人の神経を大きくすり減らします。品質に対し自信を持ってクライアントワークが行えることは、社員の精神性を健全なものとすることにもつながるのです。クライアントを幸せにすることと同じように、その活動を通して、働く者が本質的に幸せであることが、我々のビジネスを真にサステナブルに展開する上で重要であると私は考えます。やはり、本質的なマーケティング活動・支援によってクライアントのビジネスグロースを具体的に実現し、その成果や、クライアントからの評価、リアルな感謝のお声などを頂くことでもっと成長しよう、もっと貢献しようと思える。このサイクルが、最も基本でありメンバーの強いモチベーションの源泉になるのだと思います。

おわりに
今回、我々の取り組みや考え方のほんの一部をご紹介しましたが、何かを感じて頂けた部分はあったでしょうか。勿論、これからさらに拡大していく事業規模や組織規模を考えた時、引き続き当社の現在のやり方・あり方がそのまま全てベストであり続けるとも考えていません。同様に、全てのエージェンシーが当社と同じスタンスをとることが有効であるとも当然考えていません。浪漫にも算盤にも妥協せず、クライアントにも社員にも本質的に幸せになってもらい続ける中で、どこまでいけるのか。これは我々のビジネスモデルへの挑戦とも捉えています。
業界の”負”と対峙し、そして変革する。当社のチャレンジはこれからも続きます。
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